朝起きたときに顎が疲れている、
歯がすり減ってきた、
詰め物や被せ物がよく壊れる——。
これらの症状の背景に多く関わっているのが
**歯ぎしり(ブラキシズム)**です。
歯ぎしりや食いしばりは、
自覚のないまま歯・顎・筋肉に大きな負担をかけ続けるため、
放置すると歯の寿命を大きく縮めてしまいます。
歯科治療において、
この歯ぎしりへの対応として重要なのが
- スプリント(歯ぎしり防止装置)
- ボトックス治療(咬筋ボツリヌス治療)
という2つの選択肢です。
本コラムでは、
スプリントとボトックスそれぞれの役割と、併用する意義について、
歯科医師の立場から分かりやすく解説します。
歯ぎしり・食いしばりとは何が問題なのか
歯ぎしり・食いしばりは、
単なる「クセ」や「ストレス反応」ではありません。
歯ぎしりの力は想像以上に強い
歯ぎしり時に歯にかかる力は、
- 通常の食事中の数倍
- 場合によっては10倍以上
になることもあります。
しかもこの力が、
- 無意識
- 長時間
- 毎晩繰り返される
という点が、歯にとって非常に深刻です。
歯ぎしりによって起こる主なトラブル
- 歯のすり減り(咬耗)
- 歯のヒビ・破折
- 知覚過敏
- 被せ物・詰め物の脱離や破損
- 顎関節症
- 頭痛・肩こり
特に、
セラミック治療・インプラント治療後では、
歯ぎしりへの対策を行わないと
治療結果そのものが損なわれることもあります。
スプリント(歯ぎしり防止装置)とは
スプリントとは、
歯科医院で個別に作製する医療用の歯ぎしり防止装置です。
一般的には、
- 就寝時に装着
- 上下どちらかの歯列を覆う
- 硬質または半硬質の樹脂製
で作られます。
市販のマウスピースとは異なり、
噛み合わせ・顎の位置・筋肉のバランスを考慮して設計されます。
スプリントの3つの重要な役割
① 歯を守る(力の分散)
スプリントを装着することで、
- 歯同士が直接ぶつからない
- 特定の歯に力が集中しない
ようになり、
歯や被せ物の破折リスクを大きく下げます。
② 顎関節・筋肉を守る
噛み合わせが安定することで、
- 顎関節への負担軽減
- 咀嚼筋の緊張緩和
が期待できます。
「朝の顎のだるさが軽くなった」と感じる方が多いのもこのためです。
③ 診断ツールとしての役割
スプリントの削れ方や当たり方を見ることで、
- 歯ぎしりの強さ
- 力のかかり方の偏り
を把握でき、
今後の治療計画に役立ちます。
それでも症状が強い場合がある理由
スプリントは非常に重要な装置ですが、
すべての歯ぎしりを完全にコントロールできるわけではありません。
特に、
- 咬筋(噛む筋肉)の力が非常に強い
- 食いしばりの頻度が高い
- 顎の張り・エラの張りが目立つ
このような方では、
スプリントだけでは症状が改善しきらないこともあります。
そこで選択肢となるのが、
ボトックス治療です。
歯科におけるボトックス治療とは
歯科で行うボトックス治療とは、
噛む筋肉(主に咬筋)にボツリヌストキシン製剤を注射し、筋肉の過緊張を和らげる治療です。
一般的に知られる美容目的ではなく、
医療目的の筋緊張緩和治療として行われます。
ボトックスの作用メカニズム
ボトックス(ボツリヌストキシン)は、
- 神経から筋肉への過剰な信号を一時的に抑える
- 筋肉の緊張を穏やかにする
という作用を持ちます。
その結果、
- 食いしばりの力が弱まる
- 顎の疲労感が軽減する
- 歯や補綴物への負担が減る
といった効果が期待できます。
歯科ボトックスのメリット
- 歯ぎしり・食いしばりの力を根本から弱められる
- 顎関節症状の軽減
- 頭痛・肩こりの改善が期待できる
- エラの張りが緩和されることもある
特に、
歯ぎしりが非常に強い方にとって有効な補助治療です。
ボトックスの注意点・限界
一方で、ボトックスには次のような特徴があります。
- 効果は永久ではない(約3〜6か月)
- 歯を物理的に守る装置ではない
- 咬合そのものを治す治療ではない
つまり、
ボトックス単独では「歯を守る」治療として不十分です。
スプリントとボトックスは「どちらか」ではない
ここで非常に重要なポイントがあります。
スプリントとボトックスは、役割がまったく違う
という点です。
スプリントの役割
- 歯を直接守る
- 力を分散する
- 補綴物・インプラントを保護する
ボトックスの役割
- 筋肉の力を弱める
- 食いしばりの頻度・強さを下げる
つまり、
スプリント=防具
ボトックス=筋力コントロール
という関係です。
併用することで得られる最大のメリット
スプリントとボトックスを併用すると、
- 歯にかかる力が減る
- 直接的な破壊リスクが下がる
- 顎・筋肉の疲労が軽減する
結果として、
歯・顎・治療結果すべてを長期的に守ることが可能になります。
特に、
- セラミック治療後
- インプラント治療後
- 強い歯ぎしりが確認されている方
では、併用が非常に有効です。
どんな人に併用が向いているか
- スプリントを使っても顎の疲れが強い
- 歯ぎしりが非常に強いと指摘された
- エラの張りが気になる
- 顎関節症の症状が強い
- 高額な補綴治療を長持ちさせたい
このような方は、
歯科医師と相談のうえで併用を検討する価値があります。
まとめ|歯ぎしり対策は「段階的・総合的」に考える
歯ぎしり・食いしばりは、
自覚がないまま歯と顎を壊していく
非常に静かなリスクです。
- スプリントで歯を守り
- ボトックスで筋肉の力をコントロールする
この2つを適切に組み合わせることで、
歯科治療の質と寿命は大きく向上します。
「歯ぎしりくらい大丈夫」と思わず、
気になる症状がある方は、
ぜひ一度歯科医院で相談してみてください。
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